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月下庭園 一話

2012.06.27 15:13|漫画
公開はしてないものなので、新都社の方で載せても良いものなんでしょうが、小説で続きを書く気は今ないのでこちらに一話だけ載せておきます。
その当時読んでいた本に影響された感がよくわかりますねw
漫画でも小説と同じ雰囲気を出したいと思っているのですが、果たして同じになっているでしょうか…。
それでは、読んでやるぜ!って方は続きからどうぞ(・ω・*)




それは木々が乾いた音を鳴らし、空が遠く澄んで見え、草花が枯れて物寂しい秋のことだった。
8つになった僕は初等学校へ入学し、そこには寮があったので親と四半期もの間離れ離れにならなくてはいけなかった。
大層甘えたがりだった僕は玄関で母の服を掴んでは離さず、周りの目も気にせずに泣き叫んだ。
家から通う学校があったにも関わらず両親が僕をそこへ入れたのは、おそらく僕があまりにも甘えたがりで心配だったからだと思う。
ともかく僕は教師に無理やり校内へ引っ張られ、一日中泣いては目を腫らす日々が続いた。
寮の同じ部屋の級友は僕の他に5人いて、その子たちは夜に先生が見張りにくる直前まで、枕投げやら騎士ごっこやら、男の子らしい遊びを毎晩繰り返した。
それなのに僕は泣いてばかりでその子たちにまったく馴染めず、ずっと毛布を被っていた。
そんな僕が気の強い同級生や上級生に目をつけられないはずがなく、いつの間にか僕はいじめの的となってしまっていた。
僕の家は他の子供と比べて裕福で、中々手に入らない貴重なもの――例えば、金ぴかの鉛筆や機関車の模型――を持っていたので、道端で待ち伏せされては、脅されて度々それを取り上げられてしまう。
時には腹に一発いれられることもあった。それは彼らにとってはぬるいものかもしれなかったが、その当時の僕にとっては大切なものでも彼らに渡してしまう、十分な程のものだった。
その頃は死ぬことばかり考えていた。

そして、僕は彼に出会う。

彼のことを知らない者はいなかった。彼は自己主張することなく、けれどいつでも目だっていた。
それは身にまとう他の子供とはどこか違う落ちついた雰囲気、そして銀に近いくらい透き通った金の髪と、その下のとても端整な顔のせいだ。
彼はいつも本を抱えていて、誰と交わることもなく一人でいた。
彼が人を避けていたのもあるのだろうし、なんといっても近寄りがたい空気を持っているのだ。
僕ももちろんそうだったし、僕をいじめていた奴らも彼には近づかなかった。

彼の名前はエルンスト・バラック。
僕を助けてくれたのは彼だった。

「君はいつも泣いてばかりだね」

いつもの通りいじめられて木陰に隠れて泣いていたのを、彼は覗いて僕に話し掛けた。
その時見上げた彼の真っ白な顔と、日に照らされてきらきら輝く彼の髪を、僕は今でも忘れられない。
僕は驚いて泣くのも忘れてしまっていた。
彼が彼だと認識はしていたが、その時の彼は前に読んだ本に出てくる天使そっくりだったのだ。
彼は僕の目の端に溢れている涙を、指でそっと拭ってくれた。

「なにがそんなに悲しいんだい?」

僕の目には、彼の背中に翼が見えた。
その優しそうな笑顔と温かな声色は僕に母親を思い出させ、僕は彼の胸にしがみついて思い切り泣き喚いてしまった。
それでも彼は迷惑顔一つせず、僕が泣き止むのをじっと待っていてくれた。

「泣き虫のミヒャエル・クルム」

彼は僕のつむじを、指でトンと押した。

「ものごとをただ待っているだけではだめだ。こちらからも与えに行かなくては」

彼の言っていることの意味を理解するには僕は幼すぎたが、顔を上げるとそこにはにっこりと僕に笑いかける彼の笑顔があったので、僕はその時ようやく笑顔を思い出した。
それからエルンストはいつも僕を気にかけてくれ、自然と僕の隣には彼がいることが多くなった。

「さあ、背をまっすぐ正し、顔をあげて正面を見据えて。
悠然と、自信を持って大地を踏みしめるんだ。神様は僕達を見ていてくださっている、とね」


そのうち、僕をいじめる者はいなくなった。
皆から一目置かれるエルンストが隣にいてくれているからか、僕が泣かなくなったからか。
どちらにしても、彼のおかげだ。
十月の冷たい風が僕の身体を攫おうとするが、彼の周りでは暖かな日差しが舞い降りて、木々の軋む音もまるでオルゴールの音色のようだった。

「僕には家族がいない」

時々エルンストは遠い目をして僕に語ることがあった。

「でもここの校長先生が、僕が大人になるまで見てくださると言った。
だからそれに応えるためにも、僕はたくさん本を読んで勉強しなくてはならない。
早く大人にならなくてはいけないんだ」

僕は十分彼は大人だと思ったけれど、それでも彼はどこか寂しそうだったから、
ああ大人になるには寂しさを我慢しなければならないんだ、と思った。
それと同時に、僕には家族がいるのに、少しの間離れなくてはいけないというだけであんなにも泣いていたのだなんてと、恥ずかしさで胸が焼けてしまいそうだった。

けれど、彼は僕に大人になることを強要しない。
それは僕が彼の友人には値しないからだろうか?と僕はすごく不安になった。
彼がすっかり大人になってしまって、そうして他の大人になってしまった子たちとどこかへ行ってしまったら?僕は置いて行かれてしまうんだろうか?
だってこんなにも、僕は子供なんだもの。

そういう考えを捨てきることができないまま、秋が過ぎて寒い冬が来た。

談話室の暖炉の前には大勢の子供たち。
しかし僕達は部屋の隅で一枚の毛布を被って、暖めあっていた。
エルンストが、こうしていると暖かいよ、と言ったから。
僕は彼とそうしているのがとても好きだったけれど、いつか彼は僕を置いて行ってしまって、そうしたら彼とこうしているのは僕ではなくて他の子なんだ。
そう思ってしまったらそれが頭から離れてくれなくて、僕はまた泣き出してしまった。
エルンストは僕が突然泣き出したことに驚いて、どうしたの、と声をかけながらずっと髪を撫でてくれた。
僕はいてもたってもいられず、僕の考えを全部彼に話してしまうと、彼は軽快に声を上げて笑った。
僕は真剣にそれを考えていたので怒ってると、彼はごめんごめん、と謝り、
そして優しげに微笑んだ。

「泣き虫のミヒャエル・クルム、それじゃあ僕から君に親愛の印を捧げよう」

そう言って自分の制服の首元からするりとリボンをとき、僕の首からもリボンをとり、
僕のリボンを彼の首元に結んで、自分の首を指差した。

「これで僕は君のもの。そして」

今度は僕の首元に、彼のリボンをきゅっと結んだ。

「君は僕のもの」

その赤い布地のリボンは、裏にその持ち主の名前が金色の糸で綴られている。
僕の首元のリボンにも当然それがあった。
僕はそれが他のどんなものよりも――取られてしまった金ぴかの鉛筆や機関車の模型よりも――輝いた宝物に見えた。


冬が過ぎ、春が過ぎ、夏が来て彼と出会った季節が過ぎていく。
僕は自覚していなかったけれど、その度僕らは一歩ずつ大人に近づいていったのだ。
そして、三年が経った。
僕は肌寒い季節にうんざりしながらも、新しい四年生の年に心が躍っていたりもした。
朝礼へ行く道で、枯葉と小枝をパキパキと踏み鳴らす。
吐いた息は白く濁って消えた。
彼の姿が見えなかったが、その当時彼はふらりと一人でどこかに行ってしまうことがあったので、僕はそれに慣れてあまり気にならなかった。
どうせ、朝礼が終わったら教室で彼に会えるだろう。
彼のリボンは僕の首もとで揺れ、それが信頼の証でもあった。
そう、彼は僕を置いて行かない。
だって僕は彼のものだもの。

けれど、彼は学校からいなくなってしまった。


「今度会うときは、泣いていないで笑顔を見せて」

そう言って、僕の前から姿を消した。
彼は重い肺病を患ってしまっていたのだ。
ふらりとどこかへ行っていたのは保健室で、僕にそれを知らせなかったのは、きっと僕がそれを知ったら泣いてしまうからだろう。
治ったら会おう、とエルンストは彼が行く病院の名前も教えてくれなかった。
彼の手紙は毎週届いた。でも住所がわからないので僕からは返事が出せなかった。
なんて酷い奴だろう。
僕は憤慨して彼に会ったらなんて言ってやろうと考えていたが、それでも新しい手紙が来るたびそれを抱いてベッドに入ったし、相変わらず彼のリボンは僕の首もとで揺れていた。


ある日を境に、彼の手紙は途絶えた。
僕はまた毎日目を腫らす日々を送ったが、それも長くは続かなかった。
年月が過ぎて、僕も寂しさを我慢できる大人になったのだ。
それが大人になった、と言えることであるならば。
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